2015.12/3
私がもっとも馴染み深い温泉街は、大分県九重町の筋湯温泉だ。出版社勤務時代に一軒ずつ泊まり歩いたレポートをシリーズ化したり、旅番組のディレクターを休日に拉致して、「筋湯温泉の将来について」というテーマの夜なべ談義を開催したりと、思い出には事欠かない。そんな筋湯温泉で、今回は全室露天風呂付き離れの客室を持つ「喜安屋」を訪れた。
全室にも露天風呂
青々とした木立の中の小径をすすむと現れる本館。初めてお会いしたのが20年以上前、という女将さんが変わらぬ笑顔で出迎えてくれた。そして、フロントの奥からは大女将が元気に声をかけてくれた。親戚の家に来たようだ。近況を報告しあって、客室へ向かう。その道すがら、男女別の露天風呂を改装して倍の広さになったとの情報をゲット。ひとしきり、客室の説明を受け、お茶とお茶菓子で一息つく。このウェルカムデザートとお茶は重要な効能を持っている。というのも、温泉入浴は、20分漬かると20分のジョギングに相当するカロリーを消費する。よって、道中の疲れを癒すのと同時に、事前の水分とカロリー補給による湯あたり防止の効果が期待できる。さて、これで準備万端、改装した温泉へ。
風呂付き客室の旅館の場合、男女別大浴場の利用率って極端に低下する。そこが狙い目。こんな大きな露天風呂を独り占めすることができるのだ。しかも、ゆっくりと。この時期に至ってもなお、筋湯の空気はひんやりとしている。心地よい。体中を包み込むように温めてくれる温泉に漬かりながら、緑豊かな木々の葉が創り出す新鮮な酸素を吸い込む。すうぅ〜、はぁ〜、と無意識のうちに深呼吸。じわじわと、肩のコリもほぐされて、リンパの詰まりも解消されていくような気分になる。首から肩にかけて、そして、太ももやふくらはぎをもみほぐす。「幸せだ」と心で叫ぶ。十分にカロリーも消費したようだ。一旦、客室で一眠りした後、夕食会場へ。
地元食材をたっぷり
久しぶりにこちらの夕食を味わう。昔は、素朴な山里の手作り料理、という印象の内容だった。それはほっとした気持ちにさせてくれるまさにおふくろの味。実はこちら、創業以来50年近く経つのだが、9年前に場所を移し、宿を新築している。それを機に料理も一新。田舎風でもなければ、華やか過ぎてもいない、温泉旅館風の本格会席へと進化していた。地元の食材をふんだんに使ったボリュームも、味付けや器使いも大満足な内容だ。満たされたお腹を抱えて客室へ戻る。ちょろちょろという温泉の音をBGMに自分だけの露天風呂を3度も満喫した。
今回は何だか、久しぶりに再会した幼なじみが人間的に大きく成長し、健康的で明るかった時の喜び、そんな心温まる嬉しい一夜であった。
<西スポ2015年7月1日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>
【住所】大分県玖珠郡九重町筋湯温泉527 【TEL】0973-79-3341
【HP】http://www.kiyasuya.jp/