ゆけむり紀行

2014.6/4

見目麗しき品々…上質なお芝居を味わっている気分に

樹(夕食)
夕食は、まさに芸術の域。女性のハートをわしづかみ必至!

「どこかおすすめの旅館教えて?」という漠然とした質問に答えるのは至難の技だ、とは以前にも当欄でお伝えした。「誰と?」「予算は?」「希望の温泉地とか?」など判断材料となる要素が必要だからだ。つい先日も私の携帯電話(スマホじゃない)が鳴り、この通りの不毛なやり取りがスタートした。
ヒアリング項目の中で一番聞きにくい質問は「誰と?」である。ぶっちゃけ、ムフフの「お忍び」というケースもある。先日の電話の相手、親しくしている飲食店経営者は「友だちと2人で…」と。まさか男同士2人はないだろう。「客室に露天風呂があって、個室での食事がいい?」と投げかけてみると「ぜ、ぜ、ぜひ、そんな宿を!」と分かりやすく声のトーンが上がった。
旅の目的は明白。でもこんなとき、何となく私まで「お忍び旅行ほう助罪」に当たりそうで、罪悪感を覚えずにはいられない。だから、ハッキリと問い詰めることはしない。相手のためにも、自分のためにも、逃げ道を用意しておくのだ。
さて、今回はハレの記念日はもちろん、お忍び旅行にもイチオシ(?)の大人気旅館「由布院別邸 樹(いつき)」をご紹介しよう。
名旅館が群雄割拠する大分・湯布院に6年ほど前、突如として出現し、あっという間に名旅館の座を射止めた気鋭の宿である。オープン当初は全室離れに温泉付きの客室で素泊まり8000円、という珍しいタイプの宿泊施設だった。3年後、フロント機能を持たせた「レストラン十和蔵」を敷地内に開店し、宿泊料が3倍近くに上昇。
しかし、それでも稼働率は下がらず、現在でも90%台というから驚く。

そのワケは、宿泊料の大幅アップをものともしない会席料理にある。見目麗しき品々とはまさにこのこと。特に八寸は瞠目(どうもく)に値する。大げさな!思われるでしょうが、料理というより芸術に近いかもしれない。1枚の重厚な陶板上に、その時期の食材によって湯布院の風景や風物詩がきれいに描かれるのだ。
最近はあまり感動することもなくなったこの私でさえ、しばし、端を置いて眺めていたくなるほど。女性なら心をわしづかみされるに違いない。もちろん、味付けも文句なし。食事をとるというよりは、上質なお芝居を味わっているような気分になる。 
そして、おなかも心も十二分に満たされた後は、優雅な気持ちにさせてくれるモダンな客室で、一目を気にせずゆっくりと温泉を楽しむことにしよう。慌てなさんな!湯布院の夜はまだ長い。
<西スポ2014年4月30日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>

樹(離れ客室山吹)
離れ客室「山吹」
樹(木蓮)
離れ客室「木蓮」の岩露天風呂
  • 【朝食も妥協なし】
  • 離れタイプの客室が全9棟。その全ては二間続きで、専用の庭と温泉も完備。内風呂つきの1棟を除いて、ほか8棟は内風呂と半露店風呂まで備わっている。「レストラン十和蔵」はラグジュアリーでモダンな造り。専用の個室での会席料理がおすすめだが、連泊するなら鉄板料理も楽しみたい。微塵の妥協も見られない朝食も大好評だ。もちろん、スマートで行き届いた接客があるからこその満足感である。
大分県・湯布院温泉「由布院別邸 樹」

【住所】大分県由布市湯布院町川上2652の2 【TEL】0977-85-4711
【HP】http://www.dining-towakura.jp/