2014.2/19
動物の名前を冠した温泉地は歴史ある名湯のケースが多い。九州では熊本の山鹿温泉、佐賀の熊ノ川温泉、福岡の原鶴温泉など。その昔、傷を負った動物たちが湯あみをしている光景が命名の由来である。よって、歴史も深く、効能も豊かな温泉地、という根拠なのだ。人間界に湯治文化が根ざしたのと同じ道理で、至極、ごもっともな名湯見分け法であろう。今回はその原鶴温泉の人気旅館「六峰舘」へと向かった。
午前10時のチェックアウトから1時間もすれば、ちらほらと来館者が目立ってくる。日帰りの利用客だという。間接照明でほっと安らぐ雰囲気のロビー奥にある和風の食事どころで、気軽なメニューも味わえるし、客室を使っての本格会席もいただける。はたまた、入浴だけでも利用可能なのだ。平日というのにお昼時ともなるとロビーのソファーは満席。メンバーがそろうと温泉浴場へ向かったり、食事どころを目指したり、と徐々に姿が消えていく。
人気の一翼を担う屋上の展望庭園露天風呂は「素晴らしい」の一語に尽きる。屋上と思えない日本庭園には和風情緒がむんむんと漂う。遠く耳納連山や筑後川を望む景色も爽快だ。何度も漬かった温泉だが、脱衣場では心がはやる。良泉へ漬かる喜びを体が覚えているのだろう。ごちそうを前にしてよだれを垂らす、まさしく、パブロフの犬状態である。鳥肌のたった体にかけ湯をジャブジャブ。準備が整ったところで、おもむろに左足から漬かり、ゆっくりと体を沈める。一呼吸置いて、首まで漬かる。絶妙な湯加減の温泉が染み渡る。湯中にはちらほらと白い湯の花が舞っている。
ほのかに香るのは温泉気分を盛り上げてくれる硫黄臭。一口に硫黄泉といっても硫化水素型と硫黄型があり、ここ原鶴の場合はアルカリ性が多いといわれる硫黄型。アルカリ性と硫黄成分によるダブルの美肌効果が得られる泉質なのだ。ハッキリと申し上げるが、私、この連載で美人湯ばかりを求めているわけではない。これはいいと思った温泉に偶然、決まって美肌の効果があるのだ。と、言い訳ともつかない言い訳をつぶやきつつ通う、今日この頃。
<西スポ2014年2月12日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>
【住所】福岡県朝倉市杷木久喜宮1840 【TEL】0946-62-1047
【HP】http://www.roppo.jp/