ゆけむり紀行

2014.1/13

岩肌をくりぬいた湯船、せせらぎ、木漏れ日…非日常を楽しむ

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源泉が39℃と少しぬるめの天然洞窟温泉

温泉には様々な効果・効能がある。温泉成分による薬理効果、血行を促進させる温熱効果、浮力によるマッサージ効果・・・など。さらに以前にも述べたが、非日常の快感がもたらす転地効果には即効性があり、私が温泉旅館に求める最大の要素でもある。いくら成分濃厚な温泉でも、浴槽が家庭用のユニットバスではその効果も半減するというもの。川のせせらぎを聞きながら、木漏れ日を浴びながら、自然の景色を眺めながら、といった非日常感が欲しい。爽快気分からのストレス発散のためには、やはりそれなりの舞台が必要なのだ。そんな素晴らしき温泉舞台を提供してくれるのが、大分県九重町の名湯「壁湯天然洞窟温泉 旅館福元屋」だ。

開湯は、今を遡ること約300年。傷をいやしに来た鹿を地元の猟師が見つけ、岩の奥から湧き出る温泉を発見したのだという。険しい岩肌に道を通し、川を仕切って湯船を造成。自然の岩肌をそのままに利用した形状から「壁湯」と呼ばれる。久しぶりにつかってみると、ぬるく柔らかい湯。気持ちいい。体中から緊張という強張った固まりが、お湯に溶け出していくような感覚に陥る。何も考えず、ため息を何度もつきながら、じっくりとつかる。湯船の底には自然石がゴロゴロしているが、その間から温泉が湧き出してくるのが感じられる。驚くなかれ、その量たるや、毎分1300リットル。ドラム缶にして6本半分がたったの1分で湧き出し続けているのだ、300年間も。

そして何よりも、このシチュエーションが良い。岩肌をくりぬいた、まるで洞窟のような湯船。湯船のすぐ横を流れる清流。そんな中で湧き出したばかりの、このうえなく新鮮な温泉に身をゆだねる。しかも、この風呂は男湯でも女湯でもない。つまり混浴なのだ。何が「しかも」なのかはご想像にお任せするが、温泉の醍醐味(だいごみ)が集約された湯であることは疑いない。これぞ九州を代表する名湯である。
<西スポ2013年10月2日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>

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川のせせらぎを聞きながら
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福元屋玄関
  • 【日帰り情報】
  • ●営業時間:9時~21時 ※不定休
  • ●料金:大人300円・子供150円
大分県・壁湯天然洞窟温泉「旅館 福元屋」

【住所】大分県玖珠郡九重町大字町田62-1 【TEL】0973-78-8754
【HP】http://www.kabeyu.jp/