2014.1/8
私は水辺が好きだ。川でも海でも水を眺めていると、無性に気分が落ち着く。初めて山口県の俵山温泉に行ったとき、温泉街を流れる川で泳ぐニシキゴイの悠々たる姿に目を奪われた。雑誌の広告営業もそっちのけで座り込んだまま、しばらくニシキゴイの優雅な動きに酔いしれた。別の機会には、水路に色とりどりのコイが泳ぐ島根県の津和野でも水路から離れられず、仕事にならなかったことがある。そのとき、私の前世はナマケモノ・・・いや、優雅きわまりないコイなのだと確信した。前世の記憶が、私を水辺に誘うのだろう。フッ。
そんな水辺フリークの心をわしづかみにするのが、熊本県菊池渓谷温泉の「岩蔵」だ。そのわけは今年6月に完成した、京都の川床をほうふつとさせる食事処(どころ)にある。川床…。そう、鴨川の夏の風物詩にして、私の憧れ。あのたまらないシチュエーションが、九州で楽しめるというわけだ。くだんの食事処は、渓流・菊池川沿いという地の利を生かしたガラス張り。ゆえに素晴らしい景色が望めるのは言うまでもない。そしてここの特等席はやはり、川っぷちにせり出した川床のテラス席だろう。眼下には豪快な自然石がごろごろと転がり、その横を清らかな水がとうとうと流れてゆく。視線を上げれば、そびえ立つ岩壁の武骨な岩肌に木々が青々と生い茂る。これぞまさに渓谷美、いやはや私にとっては、ヤフオクドームのスーパーボックス並みのプラチナシート。よくぞ造ってくれました、と心の中で拍手喝采した。
この風流な食事処は宿泊者以外にも開放され、前日までの予約で昼食を楽しむことができる。ぶっちゃけ、ここではどんな料理もおいしく感じそうなものだが、やはりそこは「感動」を売るサービス業のプロ。この自然美に引けを取らない、目にも鮮やかで美麗な「川床御膳」(4500円)が供される。
あまりの興奮に肝心の温泉を忘れてしまいそうだが、こちらの温泉はこのエリア特有の美肌の湯。川床で京情緒を楽しんだ後は、京女も驚く美肌の湯をゆっくりと堪能していただきたい。
<西スポ2013年7月17日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>
【住所】熊本県菊池市重味2224の8 【TEL】0968-27-0026
【HP】http://www.iwakura0026.com/