2014.1/4
仕事柄、「おすすめの温泉を教えて」という漠然とした質問を承ることが多い。「日帰り?宿泊?誰と?予算は?」と矢継ぎ早に質問しつつ、頭の中で候補の温泉を絞り込む。オーダーが「気軽な日帰り」だったとき、私なりの最近のベストアンサーといえるのが、大分県日田市の琴平温泉「ゆめ山水」だ。「日田と言えば日田温泉では?」と思われるかもしれないが、ここ琴平温泉はいわゆる”日田の奥座敷”。福岡から車で約1時間のアクセスながら、街中の喧噪とは無縁の静かな地に湧く温泉である。
大分自動車道を日田インターで降り、サッポロビール工場のすぐそばから川沿いの細い道を進む。木々を従えた和風情緒漂う門のその先に、男女別の露天風呂や全16もの家族風呂が点在する。ここは家族風呂をぜいたくに独り占め…などという思いつきは捨て置いて、男性専用の露天風呂へと向かう。
浴場には、それぞれ大きさも高低差も異なる湯船が三つ。脱衣所から出てすぐに最も大きくて高い場所に位置する「のらり湯」、その奥に一段下がって中くらいの「あうんの湯」、そして川べりには自然の石をそのまま積み上げたかに見えるダイナミックな名無しの湯船。どれも甲乙つけ難いが、日差しが柔らかく過ごしやすい今の季節は、まるで川に浸かっているような開放感が味わえる川べりの湯船がおすすめだ。と言いつつ、まずは新緑まばゆい木々から木漏れ日が降り注ぐ「あうんの湯」に身を委ねる。湯は若干ぬるめで、肌にまとわりつくようなトロトロ感のある無色透明。よわい50を越えたおっさんが不覚にも「お肌にいいかも」などと思い、心の中で頬を赤らめてしまうのだから、女性ならその喜びはさぞや大きかろう。
数ある温泉効果の中でも即効性が期待できるものに、「転地効果」というものがある。その療法は至って簡単。「こんな自然の中で温泉に浸かれて、あ~気持ちいい。景色も良いしねえ」などと思いを巡らすだけ。この日常では味わえない体験が、精神に安らぎをもたらすのだ。泉質で喜び、ロケーションにくつろぐ。いやはやこれぞ温泉、そして露天風呂の醍醐味である。
<西スポ2013年5月15日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>
【住所】大分県日田市琴平町1571の1 【TEL】0973-23-8827(露天風呂)・0973-23-7726(家族風呂)
【HP】http://www.kotohira-onsen.com