ゆけむり紀行

2014.1/3

「乱」のロケ隊も疲れを癒した黄金の露天風呂

id327_01
鮮やかな黄金色!混浴露天風呂

日々の疲労が全身にたまると「あ~、ゆっくり温泉にでも入りたいなぁ~」と、つい口走ってしまい、はっとわれに返って辺りを見渡す人も多いだろう。私も状況を考えずにそうつぶやくことがよくある。そんな心境の時、真っ先に思い浮かぶ温泉宿の一つが、大分県九重町にある筌の口温泉「旅館 新清館」だ。

創業が明治35年というから、宿の歴史は1世紀以上にも及ぶ。その間、数多くの著名人が投宿しており、世界の黒澤明監督の集大成ともいうべき映画「乱」のロケ隊も滞在したという。そんな由緒ある宿は九重町の観光名所「九重夢大吊橋」から車で約2分、鳴子川の河畔にたたずむ。白壁造りのちょっとシュールな建物の敷居をまたぐと、失礼ながら「おっ、予想以上かも」と直感的に嬉しい意外性に包まれる。私の場合、この意外性こそが思い出に残る旅の条件。ビシッと整列されたスリッパやピカピカに磨きあげられた床、あるべきところに整然と配された調度品などが、私の期待感を盛り上げてくれる。

玄関から入ると真正面にフロント、その左手にはロビーと湯上りどころを兼ねた囲炉裏の間があり、その一角の引き戸から露天風呂へ。林の中の小路を進むと、まずは混浴の露天風呂「こぶしの湯」、その奥に女性専用露天風呂「かえでの湯」が見えてくる。浴場新設の際には男女を分けるべし!という無粋な条例のせいで、悲しいかな!?今や混浴風呂は絶滅の危機に瀕している。そんな貴重な混浴露天。初めて訪れる人ならまず、その色に感動するに違いない。

茶褐色や赤茶色はよく見かけるが、こちらの色は鮮やかな黄土色。我々温泉ファンの欲目で見れば、黄金色に見えるほど。しかもそのロケーションが息をのむほど素晴らしい。木々に囲まれた湯船にゆっくりと腰を下ろし、小鳥のさえずりや小川のせせらぎに耳を澄ます。まったりとした時が流れる珠玉の温泉時間である。あまりの気持ちよさについウトウトしながら、ちょっと長めに湯に浸かる。

取材に出向いた晩。私はそこまで数日間の不眠がウソのように、ぐっすりと深い眠りに落ちた。きっと「乱」のロケ隊もハードな業務で溜まった心身の疲れをこの黄金色の温泉で癒したのだろう。数々の栄誉ある賞を授かることができた名作の背景には名湯も潜んでいたのだ。
<西スポ2013年5月1日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>

id327_02
和の雰囲気溢れる湯上り処
id327_03
白壁造りの新清館の外観
  • 【日帰り情報】
  • ●営業時間:8:00~22:00まで受付
  • ●料金:大人(中学生以上)500円、小学生以下 250円
大分県・筌の口温泉「旅館 新清館」

【住所】大分県玖珠九重町田野1427の1 【TEL】0973-79-2131
【HP】http://www4.ocn.ne.jp/~shinkan/