2014.1/2
熊本県は小国町の山間にある山川温泉にひっそりと佇むこちら。一見したところ、ちょっと大きめの民家のようだが、こちらの温泉は全国の温泉通にその名を知られる名湯。泉質は「含硫黄―カルシウム・ナトリウムー硫酸塩・塩化物温泉」。詳しい方なら、この泉質名だけで良泉なのはお分かりかと。もちろん加温・加水・循環なし、源泉かけ流しであることは言うまでもない。
湯は、温泉好きにはたまらない白濁のにごり湯。とはいえ、お湯自体は無色透明で、濁りの正体は湯の花(凝固した硫黄成分)。これだけの硫黄分を含有しながら湯が透明なのは、温泉の鮮度が抜群に高い証拠である。そんな湯に浸かっているだけで、急速に健康になっていくような…。あまりの気持ち良さに、私にも一応(!)蓄積されている微々たるストレスも吹っ飛んでいく。そこで、ふと考えた。今、世界中で紛争をしている国家やグループのリーダーを、ここに連れてきたらどうだろう? みんなで湯に浸かれば、争い事なんてどうでも良くなりはしないだろうか。楽観的すぎるかもしれないが、そんな事を思わせるほど、良泉のもたらす極楽気分は最高なのである。
柔らかな肌触りの湯、大量の湯の花、強く香る硫黄の匂い、そのすべてが極楽へとエスコートしてくれる。そんな極上の温泉を求めて訪れる客も多いが、リピーター客続出の最大要因は、こちらの女将・坂本信子さんの人柄だ。取材日も、実は休館日だったのにそんなことは露ほども漏らさず…。「久しぶりやね~、元気だった?」と、屈託のない笑顔で迎えてくれる。そう言えば初めてお会いした時も、まるで旧知の仲のように接してくれた。相手にまったく緊張感を与えないムード作りの天才で、会ってすぐの相手から人生相談を受けることもある。
宿をリピートする最大の資源は「湯」でも「美食」でも「絶景」でもなく、「人」である。私もまた、女将さんに会いたくてこの宿を訪れる一人だ。
<西スポ2013年4月17日(水)掲載「花田伸二のいい湯だな」より>
【住所】熊本県阿蘇郡小国町北里1346-1 【TEL】0967-46-3497
【HP】http://www.shirahana.com/